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調停前の措置申立てが必要となる場合

民事調停法一二条は、「調停委員会は、調停のために特に必要があると認めるときは、当事者の申立により、調停前の措置として、相手方その他の事件の関係人に対して、現状の変更又は物の処分の禁止その他調停の内容たる事項の実現を不能にし又は著しく困難ならしめる行為の排除を命ずることができる」と定めている。調停前の措置とは、調停委員会が、当事者の申立てから調停が終了するまでの間、仮の措置として相手方その他事件の関係人に対して命ずることができる、調停成立に必要と認められる保全的措置のことをいう。

調停前の措置は、民事保全法における仮処分のように債務名義となるものではなく執行力がない。よって相手方に強い拘束力をもつことはなく、調停前の措置命令を債務名義として、命令内容の実現を強制することはできず、相手方がこれに従わない可能性もあるが、実務上はほとんどの業者がこれに従っている。また、参加人以外に強制手段がなく、利害関係人に対して調停前の措置命令が発せられたとしても、参加人ではない利害関係人には何らの強制手段も用意されていないという点には注意が必要である。調停前の措置発令後は、有担保の債権者も無担保である債権者の特定調停と同じ取扱いで進めることになる。

商工ローン業者が手形を担保として保持している場合、業者が手形を取立てに回すということになれば、申立人において手形不渡りを免れることができず、事業の倒産にかかわることがある。よって、手形の不渡りを止める手続きとして、「相手方は、上記当事者間の御庁平成○年(特ノ)第○○号特定調停事件が終了するまで、別紙約束手形目録記載の約束手形を支払場所に呈示して権利を行使し、または裏書譲渡その他一切の処分をしてはならない。第三債務者は、別紙約束手形目録記載の約束手形に基づき、相手方に対して支払いをしてはならない」とする調停前の措置命令が必要となる。

調停前の措置命令は、手形の処分禁止の仮処分手続きと同様の効果を無担保で得ることが可能である。調停の事前措置が一般的になったことにより、手形をとっている業者の中でも、代理人からの申出のみで、業者が手形の返却に応じるケースも増えている。このような労力をかけない手形返却が可能となるためにも、簡裁での取扱いを定着させることが必要である。また、手形の処分禁止に限らず、調停の成立およびその執行を保全するために必要な行為であれば、あらゆる命令が発令される可能性がある。

よって、担保が必要となる民事調停規則六条による民事執行停止申立てにおいて保証金の準備ができない場合の補完的対応策として利用することが可能である。調停前の措置命令は、以前はあまり利用されているとはいえない状態であったが、調停内で紛争の解決を図るという趣旨から、商工ローン問題で債務者が振り出した手形や小切手の呈示を無担保で止めることができるようになり、次第に調停前の措置命令を利用する人が増えてきている。