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錯誤無効に対する被告の反論と原告の再反論

民事調停法一八条三項は「調停に代わる決定が確定したときは、裁判上の和解と同一の効力を有する」と規定している。裁判上の和解の効力については、判例は大審院から最高裁判所まで一貫して制限的既判力説が採られている。一七条決定は債務名義となり、執行力を有するが、一方で、「調停に代わる決定に既判力があるかどうか」という点については制限的既判力説に立って争うべきである。すなわち、一般的な錯誤無効を抗弁として、調停調書または一七条決定が、過払金があるにもかかわらず「残債務がある」として確定してしまった場合であっても、制限的既判力の立場に立つことにより、要素の錯誤があるとして、争う余地は十分にあるのである。

以上のとおり、特定調停において被告より提出があった取引履歴が取引途中からのものであり、被告に対する過払金の不当利得返還請求権が存することを知らずに、それとは逆に原告が被告に対して残元金の支払義務があるものと誤解してその義務を負う内容の上述調停に応じた場合においては、原告は「原告の行為は、原告や調停委員会を欺く被告の行為によるものであるから、原告はこのような調停に服することができない」として、「当該特定調停は錯誤により無効である」と主張するべきである。一部の取引履歴により調停が成立していることを理由として、過払金返還請求をすることで解決しているケースは実務上数多く存在している。

原告の調停錯誤無効の主張に対して、被告が「調停に代わる決定は訴訟上の和解と異なり、裁判所による公権的紛争解決手段であり、当事者双方のため衡平に考慮し、一切の事情をみて、職権で事件の解決のために必要な決定をするものであり、判決と同様の性質を有するものである。したがって、錯誤無効の主張は許されず、原告が本件決定を覆そうとするならば錯誤無効の主張ではなく再審によるべきである」と主張する可能性がある。被告の上述の主張に対して、原告は「一七条決定が確定したときは、裁判上の和解と同一の効力として調停と同様に原則として既判力を有する。

異議の申立てをしなかったことにつき、要素の錯誤等の実体上の瑕疵が認められる場合は、当事者は、再審によらず当該決定の無効を主張することできる」と解するのが相当である。原告の被告に対する不当利得返還請求権としての過払金返還請求権は、本件決定の既判力による遮断を受けないとする判例(和歌山地新宮支平一八・五・二五判例集未登載)も出されている。ただし、調停錯誤無効について、調停成立後または一七条決定後の過払金返還請求訴訟は裁判所によって判断が分かれているため注意が必要である。なお、「要素の錯誤その他の実体上の瑕疵」については、立証責任が原告にあり、錯誤無効を主張するためには十分な疎明が必要となる。